杉並区は荻窪の話である。
牧田さんが十年ほど前に知人から聞いた話だ。
「近所なんだけど、どうにもね、家の人が不幸になるみたいなのよ、その角地って」
場所は環八と青梅街道のちょうど真ん中である。
知人が知る限り三度、そこの住人は引越しをしているそうだ。
そのうちの二回は上物を潰し、更地にしたうえに新築したものだった。だが、それでもどちらも半年ももたなかった。
「結局コインパーキングにしたの。気になったみたいでお父さんが調べてたんだけど……」
そこは昭和初期まで首塚だったという。
牧田さんからグーグルマップで確認させて頂くと、確かにその場所はいまだコインパーキングのままだった。
私は早速探しにいったのだが、グーグルマップで確かに見た場所なのに、なぜか見つけられなかった。
× × × × ×
牛島さんが学生の頃、友人たちとレンタカーで湘南に行った帰りだった。
トンネルを抜け、一車線の道を走っていると後ろのトラックがいやに煽ってくる。
牛島さんが出しているスピードは格段鈍い訳ではない。一般道でこれ以上を出せないくらいの速度だった。
あまり感じのいいものではない。
不良のたまり場を横切るときのような、どこかこちらに身構えさせるような空気があった。
「飲み物買いがてら、コンビニに寄ろう」
友人が提案した。面倒なことは避けた方がいい。牛島さんは賛同した。
駐車場に入ると、仲間のようにトラックもついてきたという。
トラブルになる匂いしかしなかった。
牛島さんは知らぬ顔してコンビニに向かおうとすると、案の定というかトラックの運転手が一直線に寄ってくる。
「お前らなぁ!」
野太い怒鳴り声に面を喰らった。
因縁をつけるにしても、何か理由があるものではないか――。
「何なんですか」牛島さんが応対すると中年の運転手は続けた。
「ふざけんな、何だよ、あれ。お前らの車に乗っかってたやつ」
「は?」
「ハリウッド映画のつもりでふざけてんのか、なぁ、おい。てめぇらクソガキだけの道路じゃねぇんだぞ」
牛島さんは首をひねりつつ相手を見つめた。
どうも話を聞くと、自分たちの車の上に、まるでカーアクションのワンシーンかのように、フロントに手をかけルーフにうつ伏せになっている女がいたそうだ。
無論、牛島さんはそんな人物は知らない。いや――人物?
(そんなことをする人間っているか?)
激昂していた運転手だったが、牛島さんの腑に落ちない表情に気づくと、突如黙った。
事情を察した人間によく見られるまるで山の天気のような、表情の突然な転換。
「お前ら、あのトンネル通ったか?」
頷く牛島さんに運転手は告げた。
「……もう通るなよ。悪かったよ。じゃあな」
それだけ言うと、運転手はトラックに駆け寄り去っていったという。
その後、件のトンネルについてインターネットで調べたものの結局あれはなんだったのか、いまでも牛島さんはわからないそうだ。