ペットボトルはマメに捨てること

「水場に心霊現象が起こる話ってよく聞かない?」
 たまに、と私は森田さんに答える。
「私も聞いたことがいくつもあるし、実際に見たこともある。どのアチラ側の人も、喉の渇きを訴えていた」
 火災、遭難での飢餓、突然の病気、サウナでの事故。あるいは戦時中の死者。思いつくだけでこんな場面がある。きっと多くの人が喉の渇きを感じながら死んでいったことだろう。
 だからね、と森田さんは続ける。
「ペットボトルはマメに捨てなさい。一人暮らしだからって飲んだもの、あるいは少しだけ飲み残したもの、床に放置するでしょう」
「いますよね、捨てない人。面倒くさがって」
 私にも当てはまるのだが黙っていた。
「あれ良くないの。面倒な気持ちはわかるけど。どうしてかはわからないけれど、アチラ側の人は腐った水に惹かれてやってくる」
 まるで猫が陽射しを求めるように、と森田さんは目を細める。
「今度見てごらんなさい。丑三つ時に、布団の隙間から床を。皮膚が真っ赤に染まったお爺さんが、底を舐めようと必死に舌を伸ばしているから」
 だそうである。
 以来私はペットボトルをあまり買わないことにしている。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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