コールセンターその2

 木曽さんは宅配レストラスンでのコールセンターに従事する前、別会社でのコールセンターにて働いていた。
 仕事内容はインターネット関連サービスのユーザサポートだった。
 福利厚生は異様なほど優遇されていたが、その分ストレスフルな職場だったそうだ。

 その日もハードな電話が続いていた。
 電話だけで先方に的確な指示を与えることは非常に難しい。
 マニュアルに沿って説明しても相手の理解度によってはなかなか物事は進まない。
 一件、どのような手順を踏んでもネット回線が復旧しなかった。
 一時間ほど先方とあれこれやり取りした結果、原因はどうやら先日保守点検を行った社内の人間がミスを犯していることだった。
 謝罪をしたが先方は「この時間で稼げていたはずの金はどうするんだ。お宅のせいだ。どうなってるんだ」と一向に取り合わない。
 フルネームを名乗れと怒鳴られるが、規則としてそれはできないと何度も説明する。
 結局上司と交代し、話は至急営業を回すということで話は決着したがこういう時にはどっと疲労感がつのる。
 理不尽な扱いに慣れていても、徒労しか残らないケースだと虚しさに襲われる。
 一息もつけず電話が鳴る。
 中高年の男性だった。
 木曽さんは胸の中でため息をついた。
知識がない、横柄な態度をとる、すぐに責任問題を持ち出す。
「全員じゃないけど、そういう方が多かったの」
 一度は木曽さんが話す専門用語が難しすぎると苛立った中高年の男性が、延々と赤ちゃん言葉で喋り続けたこともあった。
「ぼくわかんないんでちゅうう、コールセンターのおばちゃんみたいにかちこくないから、むずかしいんでちゅうう」
 大の大人がこんなことをするのか。その時は唖然として声も出せなかったそうだ。
 身構えて対応しなくてはいけない。
 だが今度の電話内容は初歩的な質問だった。
 安堵しながら対応すると先方は丁寧に応じてくれたそうだ。木曽さんが指示した操作がわからないと申し訳なさそうな声で「もう一度、すいません。わたくしめに、ご教授願います」と言う。
 ただ丁寧さはまるでお姫様を扱うような過剰なものだった。
「このようなお時間をとってしまいまして、誠に申し訳ありません。感謝してもしきれません」
「いえ、私どもの仕事ですから。お客様に安心してお使いいただくことが喜びです」
 それでは失礼致します。
 電話を切ったら煙草を吸いにいこうと考えていた木曽さんの耳に意外な言葉が飛び込んできた。
「ありがとうございました、木曽洋子姫。マイプリンセス」
 ガチャン、ツーツー。
 木曽さんは苗字しか名乗っていない。
 どうして名前を知っているのか。
 どうして最後の口調はやけに馴れ馴れしいのか。
 姫とはなんなのか。
「なんかもういろいろと……限界だなぁってわかって」
 木曽さんは翌日に辞職を提出した。
 有給の消化中に今の職場を見つけたそうだ。
 今の職場でも、中年男性からの電話を受け取ると動悸が始まるという。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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