ただ不思議な話

 浜田は180センチ、85キロの巨漢である。
 どちらかといえば象に似ている男である。
 先日彼の結婚報告があり、数年ぶりに新宿で顔をあわせた。
 怖い話はないかともちかけると「基本的にそういう話は怖いから嫌い」と背中をすくめるが、中学生のときに体験した不思議な話を教えてくれた。
「虹ってさぁ」
 彼はバリトンなボイスで言う。
 これからどんな話をされるのか予想がつかなかった。
「虹は太陽と反対方向に現れるんだよ」
 私に向かって話しているのか、私の前のビール瓶に話しかけているのかわからない。 
「虹って朝は西の空。夕方は東の空に見えるの」
 後に『コイツ嘘言ってんじゃねえの?』と思って調べてみたが事実だった。
 水滴に反射して起こる現象なので必然的に太陽とは反対の位置に出るのだという。
「中学のときにさぁ、学校サボったときに見た虹が出る場所がおかしかったんだよ。わかる? 虹がさぁ、太陽の真下にあったんだよ。ありえないんだよなぁそんなこと」
 消え去るまでの二時間、浜田は虹を見続けたという。

 もう一つあるんだ。
 鶏のから揚げをつまみながら浜田は続ける。
「たぶん、その一年後くらいかな?」
 浜田が学校からの帰路、自転車をゆっくり漕いでいた。
 部活か文化祭の片付けか、時刻は遅かった。
 月夜だった。
 田舎の畦道では星々が鮮やかに見える。
「ねぇ」
 反射的に振り向いた。
 浜田に呼応するようにキラリと一筋、星が流れた。
 一連の出来事は妖精、あるいは妖怪の出来事に違いないと真剣な顔つきで浜田は語った。
 二つとも十年以上前の、長野での出来事である。

The following two tabs change content below.

別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。