全国のタカシさんへ

 ※石野という苗字は仮名である。

 真夜中。
 石野タカシさんは寝入りばなに、酔っ払いの奇声を聞く。それにまぎれて細い笛のような音が聞こえる。
 ――――――シ――。
 ――カ――シ――――。
 タ――カ――シ――――。

 瞼を開けると、窓に黒い影がへばりついている。
 それは長細く、てらてらと光る無数の脚を蠢かしていた。
 てっぺんには焼け爛れ、髪がまだらに残った女性の顔。中年女性だと思われた。
 石野さんを数秒覗き込むと、
「ちがった」
 そう言い残し、消えたという。
「なにが目的なのかわかんねぇけどさ、俺は違うタカシで心の底からほっとした。同じ名前の奴には気の毒だけど、俺じゃなかったらどのタカシでもいい。とにかくもう二度と現れてほしくない」

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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