東中野

「ほら新しくアトレ出来たでしょ? あの前あたりに」
 宮本さんが乗り換えの為、東中野駅を通りがった時だ。
「路上ライブをしている人がいたの。アコースティックギターで」
 せかせかと歩く宮本さんの耳に聞こえてきたのは、サンボマスターの「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」だった、宮本さんは虫唾が走るほどその曲が嫌いだったのでいまだ覚えている。
「よく人前であんな曲弾けて、なおかつ歌えるなぁって逆に感心して、どんな顔してるんだろうって見たの」
 顔はなかった。
 肌色に染まるだけだった。
 目も鼻も口も見えなかった。髪は耳にかかる長さだったし、帽子をかぶっていたわけでもない。表情が見えるはずだった。
 たまらなく嫌な感じがした。
 猫の死骸を目にしたような嫌な感じだった。
 その場から離れようと走りながら『そのラインに詳しい』知人に電話をかけた。
 知人曰く『死ぬ前の人の、顔は見えなくなるから。あと最近、あんた霊が見えるって人と一緒に飲んだりしなかった?』
 宮本さんはそうだと答えた。
『一緒にいると移るから。視えるようになっちゃうから。鬱の人と一緒にいるとメンタルやられちゃうでしょ、それとおんなじ。能天気でパーでIQ低そうな人と一緒に行動するに限るよそういう時』
 宮本さんは知人の言葉を聞きながら、背後に迫る息遣いを感じたという。

「なんか後ろにいる」

『だったらパーになりなさい』

 知人の言葉通り、宮本さんは電話口に「ブリの軟骨! カレイの軟骨!」と叫んだという。
 失礼ながらとても頭が悪いと思う。

 だが効果は覿面で、背後の息も耳に残る歌声も消えたそうだ。
 以来宮本さんは霊的な現象があるなと思った時は、魚類の名前を口ずさむようにしているという。

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別府

管理人です。ビックリしたときのリアクションは子供みたいです。

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